NO.1021 「大阪のおばちゃん捕り物帳」と障害者・・・刑務所が一番のセーフティーネット!
大阪のおばちゃん、気迫の捕り物やなあ。
でもこの話、それだけでは終わらせるわけにはいかないだろう。
窃盗:71歳女性、ひったくられ取り返す 自転車で350メートル追跡--大阪
逮捕された男は32歳。自転車のチェーンが外れて、走って逃げようにも逃げられない状態だったと言う。民家の軒下に隠れようとしたところをあえなく逮捕された。◇大阪府警、容疑者逮捕
7日午前8時ごろ、大阪市生野区林寺4の市道で、自転車に乗っていた同市東住吉区のパートの女性(71)が、前かごに入れていた手提げバッグを後ろから自転車で近づいた男に盗まれた。女性は自転車で約350メートル追い掛け、男を取り押さえた。大阪府警生野署は窃盗容疑で現行犯逮捕した。女性にけがはなかった。
男は住所不定、無職、早川英治容疑者(32)。女性は「腹が立ったので絶対つかまえたろうと思った。(容疑者が)若い子やったので、気の毒やわ」と話しているという。
同署によると、女性は被害現場から約200メートルの路上で、自転車を乗り捨てた早川容疑者にいったん追いつき腕をつかんだ。同容疑者は振り切ってさらに逃走。女性は追跡をやめず、150メートル先で捕まえた。バッグに入っていた現金は110円だった。
早川容疑者が乗り捨てた自転車はチェーンが外れていたという。【衛藤達生】
ドジな奴だと笑うに笑えない。
「金がほしかった」と言うこの男、「腹が減ってどうしようもなかった。最後は立っていられなかった」と言ったそうだ。その時の所持金は1円玉2枚。
おばちゃんは近所の工場のパート労働者。財布の中身は112円だったという。
腹をすかせたこの青年、逃げおおせたとしてもおにぎり1個。
おばちゃんは、「若い子やったので、気の毒やわ」と話していたという。おばちゃんもこれぐらいの子どもがいたかもしれないし、自身も決して裕福ではない。身につまされたんだろうな。
腹が減る貧困と「助けて」と言えない孤独。
犯罪は犯罪、許せないのは当たり前だが、青年も胸を痛めるおばちゃんも共にかわいそうでもある。
東京都内のデータだが、引ったくりが増えているという。弱者をねらって「容易に」手が出せる犯罪・・・。
不況の影 ひったくり急増 前年比35%増 高齢・女性 被害目立つ(2009年3月8日 東京新聞朝刊)
東京都内で今年に入り、ひったくり事件が急増している。警視庁捜査三課によると、5日現在で502件と、昨年同時期に比べ132件(約35%)増えた。同課幹部は「経済状況の悪化や雇用不安と無関係ではない」と分析。被害者の大半は女性で、高齢者が多い地域の発生が目立つことから、同課は「弱者を狙う卑劣な犯行」として警戒を強める。
都内のひったくり被害は2004年には年間4518件だったが年々、減少。08年は1985件まで減っていた。
道具や技術を要する侵入盗などと違い、バイクや自転車があれば事足りるため「職にあぶれたり、ギャンブルに負けた若者や暴走族出身者らが安易に手を出している」(捜査三課幹部)という。
結局はこの日本社会、「三食つきの刑務所が一番のセーフティーネット」なのである。
山本譲司氏に『累犯障害者―獄の中の不条理―』 という著書がある。

氏はご存知の通り、秘書給与詐取で実刑に服した元民主党衆議院議員である。
受刑中に「障害者の世話係り」を担当するという経験の後に、出所後の調査で実態を鋭く告発している。日本の障害者福祉がいかに貧しいか、刑務所が彼らにとって最初で最後のセーフティーネットとなっている実態を。
知的障害者の場合
法務省の統計では、毎年、刑務所に入ってくる受刑者の2割、約7千人には何らかの知的障害があるという(IQ70以下程度を指標にしている)。知的障害者は対人口比で約2~3%として見ると異常に多いことがわかる。
また厚生労働省の研究班が一昨年公表したサンプル調査では、知的障害の疑いがある受刑者410人の約7割は再犯で入所していた。犯行の動機も「生活苦」が4割で最も多かった。
知的障害者が福祉サービスを受けるには、療育手帳がなければならない。しかし、さきのサンプル調査で対象410人のうち、手帳を持っているのは26人にすぎなかったという。
手帳を得るには、障害者側が申請しなければならない。先ずアクセスに障壁がある。また「18歳までに障害が発生した証拠」も求められる。これも大きな壁になっている。
軽度の知的障害者やいわゆるボーダーの人たちの多くは、貧困層で福祉を利用する事さえも知らず自己申請ができない。そうして貧困の谷間をさまよい、生活苦から軽微な窃盗などの犯罪に手を染めるのである。出所しても貧困は解決されず7割が再犯を繰り返す。
そして、その貧困と知的障害は、世代を連鎖していると言わなければならない現実がある。
経済的・精神的「その日暮し」の貧困から 這い出せないでいる。
参考過去ログ:NO.436 受刑者の出所―知的障害者の復帰に手を・・・朝日の社説を支持する。
「生きづらさ」を解決するのが政治の仕事
引ったくりの青年も貧困にあえいでいる。
障害のある人たちも、貧困をベースに障害という重荷を二重を背負っている。
彼らの、最初にして最後のセーフティーネットがこの国では刑務所なのである。
貧困も障害も、「生きづらさ」の根源にあり、それゆえに刑務所しか生きるところがないという社会。この国は、そういう国なのだ。この事実が、この国の福祉の貧しさを象徴的に物語っている。
「いまや、刑務所の一部が福祉の代替施設と化してしまっている」日本の福祉の現実!
国民が生きることを支え、「生ききづらさ」の原因を取り除き、無数のセーフティーネットを張るのが、いや、落ちてしまいそうな綱渡りの生き方をしないですむような、一人ひとりの生活を支えるのが政治の仕事だと思う。
是非お読みください。
山本譲司氏の出版の記「たくさんのクレームが欲しい」を以下紹介しておきます。
この本を出版するに当たって、ひとつの覚悟がある。それは、障害者本人および障害者団体から、本の内容に関してクレームが寄せられることである。「累犯障害者」というタイトルからして、福祉関係者にとっては、かなり刺激的な言葉かもしれない。
しかし私は、見てしまったのだ。彼ら「累犯障害者」の存在を知ってしまったのである。
秘書給与詐取という申し開きのできない罪を犯した私は、五年前の六月、一審での実刑判決に従い、刑務所に服役した。入所した私を待っていた懲役作業は、障害のある受刑者たちの世話係だった。驚くことに、日本の刑務所には、知的障害や身体障害など、社会的ハンディを抱えた受刑者が数多く収容されていたのだ。ところがその事実は、これまで一切伝えられてこなかった。新聞・テレビの大手メディアは、世間を騒がす事件であっても、犯人が障害者だと分かった途端、報道自体を自粛してしまうからである。本の中でも触れている「浅草・女子短大生殺人事件」や「伊勢崎・女性監禁餓死殺人事件」などが顕著な例だ。
日本のマスコミは、努力する障害者については、美談として頻繁に取り上げる。もちろん、それも障害者の一つの姿であろう。だが一方で、健常者と同じように、罪を犯す障害者もいるのだ。
障害者が起こした犯罪――。確かにこれは、マスコミにとって、センシティブな問題であるかもしれない。容疑者の障害を公表すれば、障害者は事件を起こしやすいという、あらぬ誤解と偏見を社会に与えてしまう恐れもあるだろう。しかし、障害者による犯行だからといって、その事実を社会から消し去ってしまっていいのか。結果、罪を犯した障害者は、この社会にはいない者として捉えられ、世の中から排除されているのだ。
議員在職時、「セーフティーネットのさらなる構築によって、安心して住める社会を」などと、偉そうに福祉政策を論じていた私。ところが、現実は全く見えていなかった。我が国のセーフティーネットは、非常に脆い網だったのだ。毎日たくさんの障害者たちが、福祉とつながることもなく、ネットからこぼれ落ちてしまっている。そして、やっと司法という網に引っかかり、刑務所で保護されているのだ。これが、日本の刑務所の現実、いや、日本の福祉の現実だった。いまや、刑務所の一部が福祉の代替施設と化してしまっているのである。
「こんな人たちを刑務所に押し付けられても困るんだが……」
刑務官たちも、障害者への処遇には苦慮していた。結局、獄中での障害者は、福祉的視点でケアされることはなく、ただ薬漬けにされているだけだった。周りの受刑者からもネグレクトされていた。それでも彼らは、出所後、またすぐに刑務所に戻ってくる。
ある日、障害を抱えた受刑者の一人が真顔で語った。
「俺ね、ずっとここで暮らしてもいいと思っているんだ。これまでの人生で、刑務所の中が一番暮らしやすかったから」
私は彼の言葉に、強いショックを受ける。そして、その言葉が、出所後の私を福祉の道へと導いてくれたのだ。
現在の私は、障害者福祉施設に支援スタッフとして通うかたわら、罪を犯してしまった障害者の周辺を訪ね歩いたりもしている。障害のある受刑者たちは、一体どういう理由で服役することになったのか。それが受刑生活のなかで、ずっと気になっていたからだ。
福祉の現場にいると、彼ら障害者にとって日本という国がいかに生きづらいかが、見えてくる。福祉から見放され、その挙げ句、ホームレスになる障害者やヤクザの鉄砲玉になる障害者、さらには売春婦になってしまう障害者などなど、一般社会の中で居場所を失った障害者たちと数多く出会ってきた。そんな彼らの最終的な行き場所が、刑務所となるのである。
一方で私自身、加害者になる障害者よりも被害者になる障害者のほうが何十倍も多いということも分かっている。しかしこの本では、「触法障害者・虞犯障害者」と呼ばれ、福祉関係者から敬遠されている人たちのみを取り上げ、彼らが犯罪に至る経緯を追いかけてみた。なぜならば、我が国の福祉の現状を知るには、受刑者と成り果ててしまった彼らに焦点をあてたほうが、よりその実態に近づくことができるからである。福祉の貧困さが露わになるのだ。
どうか、福祉関係者だけではなく、多くの方々からこの本に対するクレームをお寄せいただきたい。そう願っているし、それがこの本を出版した目的でもある。そして結果として、一人でも多くの人に、「累犯障害者」の問題に目を向けてもらえれば幸いである。(以上、引用)
「大脇道場」消費税増税反対キャンペーン中!
http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-588.html
いつもありがとうございます。
ランキングー

↓ ↓


- 関連記事
-
- NO.1874 知的障害者と高齢者 三食つきの刑務所が一番のセーフティーネット (2010/10/29)
- NO.1499取調べの「可視化」は急務です。 (2010/01/27)
- NO.1475 東金女児殺害事件 指紋不一致 無罪主張の根拠に (2009/12/04)
- NO.1365 知的障害者と冤罪 (その2)・・・ 東金女児殺害事件 弁護団が無罪主張へ (2009/09/14)
- NO.1021 「大阪のおばちゃん捕り物帳」と障害者・・・刑務所が一番のセーフティーネット! (2009/03/12)
- NO.1010 歴史的な付審判決定!0.07%の壁打ち破る・・・安永健太さんの死亡事件の真相を明らかに。 (2009/03/08)
- N.841 千葉・東金事件弁護団への支援要請【転載】 (2008/12/25)
- NO.838 知的障害者と冤罪。(加筆再掲) (2008/12/23)
- NO.837 取調べの可視化を! (2008/12/23)
テーマ:政治・経済・社会問題なんでも - ジャンル:政治・経済
2009.03.12 | | Comments(2) | Trackback(3) | ・障害者と「犯罪」
