NO.1069 障害者政策は「社会の鏡」 自立支援法訴訟第1回口頭弁論意見陳述に学ぶ。
障害者自立支援法は施行から3年がたち、見直しが行われています。
「自立支援法の応益負担は憲法違反だ」と、全国 地裁で約60名の障害者や家族が原告となり、違憲訴訟に取り組んでいます。
そして、150人を超える全国弁護団が結成されています。
今日は、九州福岡弁護団 中村弁護士の第1回口頭弁論における意見陳述を参考に、勉強します。以下、 障害者自立支援法訴訟 全国弁護団Webより、紹介します。
九州福岡弁護団:第1回口頭弁論における中村弁護士の意見陳述
意 見 陳 述 2009.1.30 中 村 博 則
1 障害者政策は「社会の鏡」であると言われます(甲A24号証)。
「社会の鏡」であるという意味は、障害者に対してどのような政策を取っているかが、その社会の豊かさの実態を示すということです(甲A17号証)。障害者が暮らし易い社会は、すべての人が豊かに暮らせる社会であるということです。
障害者がレストランに就職したときの経験が新聞で報道されたことがあります(甲A40号証)。当初は1日2時間しか働くことができず、経営者から退職をすすめられましたが、店長が「たった1年で解雇するのか」と猛反対しました。その店長がノートで情報を交換しながら応援し、3年後には1日5時間働くことができるようになりました。その過程で、パートやアルバイトの従業員もその障害者を気遣うようになって、接客態度まで向上し、経営者は、「いかなる研修やマニュアルにも勝る効果があった」と言っているそうです。
この例で、レストランを社会や国に置きかえても同じことが言えると思います。障害者を暖かく見守ることのできる社会や国は、すべての人が互いに思いやりを持って豊かに暮らしていけるということです。
しかし、障害者自立支援法は、障害者の自立を支援するどころか、自立を妨害し、さらには障害者のこれまでの生活そのものを否定するような法律です。
以下、障害者自立支援法の問題点について意見を述べます。
2 まず、障害者自立支援法による利用料自己負担が、障害者の最低限度の生活を破壊してしまうのではないかという問題があります。
そもそも厚労省自らが説明した障害者自立支援法の立法目的は、一般就労によって稼動所得を得ている障害者は数%にすぎないので、一般就労に向けた自立を推進する必要があるということでした(訴状137頁)。
つまり、厚労省自身も障害者の所得が少なく、その生活が憲法25条の「健康的で文化的な最低限度の生活」に達していないことを認めていたわけです。それにもかかわらず、利用料を負担させるというのは、最低限度以下の生活をさらに破壊することになります。立法の目的と内容が矛盾しています。
厚労省が言うとおり、ほとんどの障害者は稼働所得がなく、障害基礎年金を受給している人でも月6万円から8万円程度で生活保護基準以下です(訴状139頁)。原告のように年金のない人もいます。原告は、授産施設に通って1ヶ月8,000円から9,000円の収入を得ていますが、障害基礎年金と比べてもその1割程度しかありません。原告の利用料上限月額は1,500円ですが、これは原告の収入の約2割です。収入の約2割を徴収するという福祉制度は福祉制度の名に値しません。しかも、それだけでなく、自立支援法以前は無料だった給食費も自己負担であり(自立支援法29条1項,施行規則25条)、1ヶ月約6,600円ですから、収入はほとんど残りません。そのうえ、国民健康保険料の負担が、1ヶ月1,000円くらいになりますから赤字です。自分の趣味に関した本も買いたくても買えません。1,000円か2,000円の本でさえ、少し立ち読みするだけで我慢しています(訴状168頁)。最近は、企業実習に行けるようになって少し収入が増えましたが、とても自活できるほどではありません。
原告は35歳頃まで一般就労しており、その後障害者になったのですが、今も一般就労の意欲が強くそのための努力を続けています。自立支援法は、厚労省のいう立法目的によれば、まさに、原告のような人が一般就労できるように支援するべきですが、実際には、働いて得た収入を取り上げて一般就労の意欲を奪っています。「福祉の支援を受けるためには収入をはき出せ、それが嫌なら家に引きこもれ。」と言っているのと同じです。
厚労省は、障害者が憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」さえできない状態だということを十分わかっており、そうであるからこそ、障害者自立支援法が成立する以前の支援費制度のときは、収入に応じた応能負担であり(旧身体障害者福祉法17条の4,訴状50頁)、給食費や宿泊費も含めて、ほとんどの障害者が自己負担なしで支援を受けていました(甲A13号証,甲A43号証,訴状137頁)。
それなのに、障害者自立支援法は、収入に関係なく原則1割の自己負担すなわち応益負担とし(自立支援法29条3項,訴状77頁)、今年3月末までの軽減措置があるとは言え(本書面別表,訴状104頁ないし112頁)、ほとんどの障害者に負担を課すことになりました(甲A42号証,甲A50号証,甲A100号証)。結局、障害者自立支援法は、最低限度の生活さえできなかった障害者の生活費を削り取る結果となりました。これは、国家が障害者の生活を積極的に侵害したことになり、憲法25条の生存権の自由権的側面の侵害です。
そのため、障害者自立支援法の施行直前から、障害者とその親の無理心中事件が続発しています(甲A50号証,甲A60号証,甲A91号証)。障害者は親の援助がなくては生活できませんから、親にとっては、自分が亡くなった後の子供の生活が最大の心配です。それで、将来を悲観して無理心中が発生するのです。
障害者の福祉を向上させるための法律が、障害者の生活を侵害するというのは、本末転倒です。「障害者の自立を阻む自立支援法は官製のブラックユーモアか」という新聞さえあるほどです(甲A49号証)。
3 次に、応益負担にしても応能負担にしても、障害者に自己負担させる根拠があるのかが問題です。
障害者は、健常者と同じような日常生活を1人ですることができないので、生活するのに必要な最低限の支援を福祉として受けなければなりません。障害者に必要な福祉に自己負担を課すのは、例えば介護を受けて呼吸すること、食事をすること、排泄をすること、入浴をすること等に税金を課すのと同じです(訴状18頁)。これは、生存権を行使するのにお金を取ることになりますから憲法25条に違反します。また、健常者に課されない税金を障害者に課すことは差別にあたりますから憲法14条に違反します(訴状21頁)。
そもそも、障害を負ったことについて、障害者には責任はありませんから、障害者が自己負担する根拠はありません。病気にしろ事故にしろ、また、先天的にしろ後天的にしろ、障害は社会の中で一定の確率で生じるものです(訴状13頁,14頁,135頁)。誰もが障害者になる可能性があります。原告も35歳で病気になり、障害者になりました。
統計では日本の障害者は720万人(甲A100号証)とも1,000万人(訴状20頁)とも言われています。主な先進国では人口の10%から20%であり(甲A24号証)、どの国でも一定の割合の障害者がいます。障害者にならなかった人は、他の人が障害者になった結果として自分がならなかったという利益を得ていますし、また、いつ病気や事故で自分が障害者になるかもしれません。したがって、障害者に対する福祉の費用は、障害者に負担させることなく社会全体で負担するのが当然です。それが社会全体の人々の安心につながります。
4 次に、百歩譲って障害者が自己負担をせざるを得ないとしても、福祉の量に応じた応益負担ではなく、支払い能力に応じた応能負担とすべきです。
障害者は、障害を持っていること自体によって心身の負担を課されているわけですが、さらに、健常者と同じような就職ができないので収入が極めて少ないという経済的な負担も負っています。
このうえ、障害者に福祉の自己負担を課す場合には、障害者が既に心身の負担と経済的負担を負っていることを第一に優先的に考慮すべきです。既に負っている負担に加えてさらに負担させるわけですから、支払能力に応じて負担させなければ、負担能力を超えてしまいます。利用量に応じて負担させると、福祉を受ける必要の高い障害者ほど福祉を受けられなくなりますので福祉制度として意味がありません。したがって、百歩譲って障害者に自己負担を課さざるを得ないとしても、障害者が既に心身的・経済的負担を負っているということに本質的に内在する要請として収入に応じた応能負担しかあり得ません。
応益負担というのは、福祉の支援を受けることが利益であるかのような考え方が根底にあります。しかし、福祉は、障害者が心身の負担を負っている不平等な状態から平等を回復するという手段です。しかも、完全な回復ではなくほんの一部分の回復にすぎませんから、利益を受けるわけではありません。むしろ、応益負担を課すことになれば、既に身体的・経済的負担を負っている者に新たな負担を課すわけですから、先ほど述べたとおり憲法14条違反の差別であり、新たな不平等を作り出すことになります(甲A23号証)。
そのうえ、応益負担は障害が重いほど負担が重くなりますから、逆累進的に新たな不平等が生み出されます。しかも、福祉の種類ごとに上限月額が決められており(自立支援法29条4項,58条3項1号,76条2項)、種類の異なる福祉を受けるとそれぞれの上限月額が加算されます(訴状52頁,143頁以下)。この点でも、やはり、障害の重い人ほど重い負担が課されることになります。しかも、自立支援医療という種類の福祉を受けた場合の上限月額は、1,500円ではなく、生活保護を受けてなければ最低でも2,500円であり、補装具という種類の福祉を受けた場合の上限月額は、生活保護を受けてなければ、最低でも15,000円です。原告の場合でも症状が進行すると、歩くために補装具が必要になる可能性があります。
障害が重い人ほど重い負担を課すということは、働けない人ほど重い負担を課すわけですから、耐えられるわけがありません。応益負担というのは、最初から実現不可能な制度です。
そもそも、重い障害の人ほどたくさんのお金を支払ってもらう制度を導入した国はないと言われています(甲A24号証)。障害者自立支援法が立法化された理由は、その前の支援費制度が財政的に破綻したからだと言われていますが、日本は世界でGDPが第2位の国です。購買力平価で換算し直しても第3位です。支援費制度が施行された2003年の日本のGDPに占める障害関連給付費の割合は0.7%です。OECD加盟国30ヶ国のうちデータが得られた29ヶ国の中では下から3番目と報道されています(甲A100号証)。
OECD加盟国の中で下から3番目という結果は大変恥ずかしいことですが、それだけ少ない日本の障害者関連予算でもこの当時の支援費制度においてほとんどの障害者が負担なしで福祉の支援を受けていました。食料費や宿泊費も含めてほとんどの人が無料でした。したがって、日本のGDPから考えても、支援費制度が財政破綻するということは考えられません。
国は、支援費制度が2004年に274億円の財政不足に陥ったと言って応益負担1割という障害者自立支援法を成立させました(訴状32頁,甲A17号証のグラフ)。2006年4月から施行しましたが、その時点で既に利用料の上限月額という減免制度を作りました(訴状52頁,105頁)。その8ヶ月後の12月には1,200億円の財源を必要する軽減措置(特別対策)を発表して翌2007年4月に実施しました。さらに、8ヶ月後の12月には310億円の財源を追加する軽減措置(緊急措置)を発表して翌2008年7月に実施しました(訴状53頁,107頁以下)。このように、障害者自立支援法が成立したときから、3回にわたって軽減措置を行い(本書面別表)、そのための多額の財源を確保できたことからも、支援費制度が財政破綻したというのは事実でなかったことがわかります。かえって、応益負担が間違った制度であることを裏付けています。
国は、何段階もの軽減策を講じているから応益負担ではないとも言いますが、そうであれば、応益負担が間違った制度であることを認めているわけですから、利用者1割負担を定めた障害者自立支援法29条3項を直ちに廃止すべきです。
以上のとおり、百歩譲って障害者が利用料を負担せざるを得ないとしても、収入に応じた応能負担とすべきです。そして、障害者年金を受給している障害者でも生活保護基準以下の収入であり、健康で文化的な最低限度の生活もできない水準ですから、応能負担を採用した場合でも負担を課されないのが原則とされるべきです。
さきほどの1,200億円と310億円は利用料の軽減措置の財源だけではなく、福祉施設の設備援助資金も含まれていますが、例えば、福岡県では、この設備援助資金を使い切っておらず残っているそうです。そうであれば、まだ利用料の軽減のために使うことができるはずです。そして、今後、すべての障害者の利用料負担をなくすためには、年間320億円の財源があればできるということを厚労省は認めています。日本の予算の中で、この財源が確保できないとは考えられません。
5 最後に、障害者自立支援法は、福祉を提供する福祉施設に対しても、単価の切下げによって負担を課しており、その結果として福祉施設による支援の水準が低下し、障害者は十分な支援が受けられなくなります。地元の福祉施設が負担に耐えきれずに廃業してしまえば、何も支援を受けられなくなります。
具体的に、ある知的障害者授産施設では、国から支払われる金額が年間8,800万円から5,400万円に減額されるという報道もあります(甲A46号証④)。
その結果、福祉施設で人員削減がおこなわれ、低賃金・重労働となり、結局、充分な福祉が提供できなくなる可能性もあります。このままでは、ヘルパーの過労死や重度障害者の死亡事故が起こるという声も報道されています(甲A101号証)。福祉施設が経営できなくなる可能性もあり、現実に、施設経営者の自殺も起こっています(甲A62号証)。
そのため、障害者や福祉施設関係者は、協力して障害者自立支援法に対する反対運動をおこなっています。成立前の2005年7月には1万1,000人規模の反対集会をおこない(甲A26号証)、成立後の2006年10月にも1万5,000人規模の集会を行なうなど、反対運動は大きく広がっています。
九州弁護士会連合会も、障害者自立支援法の問題点を無視できないと考え、昨年10月24日の定期大会で、応益負担制度を直ちに廃止させることと、障害程度区分制度を抜本的に改めることを求める宣言を採択しました。
本件訴訟は、障害者と福祉施設関係者の命にもかかわる問題を含んでいます。
障害者自立支援法は、自立する側の障害者の自立を妨害し、支援する側の福祉施設の事業を妨害するものであり、両者を共倒れさせる法律です。
裁判所におかれましては、本件訴訟の中で、障害者と福祉施設の実態を十分に審理したうえで、憲法の生存権や平等の理念等に照らして公正な判決をお願いします。
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テーマ:医療・介護・障害制度改正の余波 - ジャンル:福祉・ボランティア
2009.04.03 | | Comments(1) | Trackback(2) | ・障害者自立支援法Ⅰ
