NO.1192 足利事件 「取調べの可視化」と麻生太郎の重大失言。
テレビでも良く報道され注目していた。もう既にたくさんの方が取り上げているが、「一刻も早く取調べの可視化(ビデオでの録音録画など)を急げ」と思うと同時に、「冤罪の名誉回復」なんて出来るのか・・・と思ってしまう。
足利事件の菅家利和(すがやとしかず)さんが、17年に及ぶ「懲役」生活の中のたたかいで、釈放を勝ち取った。ご本人と支援者の方々に、「おめでとう、ご苦労様でした」といいたい。
17年という日々は、我々には想像を絶する日々だったろう。
警察は、捕まえたらどんなことをしても犯人に仕立て上げる・・・、自白で追い込むという冤罪の典型的な例の一つだったことが事実上証明された。
密室での取調べが、心理的にどういうふうに容疑者を追い込むか、その高度で野蛮な心理戦は多分に常識を超えたものであろう。だからこそ、冤罪防止のためには日弁連などが主張するように、「取調べの可視化」で自白の強要などをチェックし、そのあり方を検証することは急を要する対策だと思う。
麻生太郎の重大失言
ところが麻生総理、ことの重大性を微塵も感じていないとしか思えない発言。
この「重大失言」を徹底的に叩かなければならない!
【麻生ぶら下がり】足利事件「可視化で冤罪が減るという感じがありません」(産経 2009.6.4 20:23)
・・・腹が立つというよりも、力が抜けそうな発言だ!--(平成2年の足利事件で殺人罪などで服役していた元幼稚園バス運転手の)菅家利和さん(62)が今日、(DNA再鑑定の結果)釈放されました。再審が始まる前の釈放というのは極めて異例だが、首相の受け止めを
○「再審請求に関する、いわゆる司法手続きってのは今から開始されるんだと思いますけれども、私の知ってる範囲でこれは極めて異例っていうけど、前例はないと思いますけどね。まあいずれにしても無実の罪で17年服役してたっていうのは、こういったようなことはあっちゃいかん。これはつくづくそう思いますね」
--似たようなケースがないとも言い切れない状態の中で、日本では再審請求が認められるのは非常にレアケースだが
○「そうですね。今回の場合はDNAの鑑定っていうのが大きな決め手になったんだと思いますけども、昔のDNA鑑定の、いわゆる科学的なレベルと今のレベルとは全然、倍率がまったく違うことになってるんで、そういったケースもあるかと思いますが、これ一概に一般論として答えるのは難しいです」
--この件を受けて、冤罪防止のために、さらなる取り調べの可視化を求める議論が強まると思うが、首相の考えは
○「可視化にしたからといって、途端にそれがよくなるという感じはありません」
--そうは言っても、無実の人が捕まって刑に服することはあってはならない
○「それ、今、答えた通りです」
--そういった国家のあり方を考える上で…
○「国家のあり方ってどういう意味ですか」
--冤罪が起きない国にするために可視化は必要だと思わないか
○「ぼくは基本的には一概に可視化すれば直ちに冤罪が減るという感じがありません」
記者もそれ以上は食い下がらず、「タイゾー議員が時期衆院選に出馬しない」ことに質問を移そうとしたところで、ぶら下がり会見打ち切りになったようだ。これも情けない話である。
決め手のDNA鑑定が、無期懲役を下し、そしてその新たな決め手がまた無罪を証明しようとしている。
・・・裁判員制度が始まり、もっと関心を持って見なければならない、他人事ではないのだ。
ところで、17という年月。
簡単に「名誉回復を」というけれども、どうやって人生を取り戻せるというのか。17年は単に17年ではなく、連続した人生だ。どうやっても取り返しがつかないのだ・・・。
菅谷さんは、「警察と検察は謝れ」というとともに、「警察と検察を絶対に許さない」と言われたという。私たちは、この行き場の無い新たな怒りにどう向き合うことが出来るのだろうか。
せめて、冤罪の再発を防止するために先ずは「取調べの可視化を!」と、声を大にしたい。
ところが、
森英介法相は5日の閣議後の会見で、可視化の導入に「全面的に義務付ければ被疑者に供述をためらわせて取り調べ機能を損ない、真相解明に支障をきたす。現段階では全面的に容認する方向での検討は難しい」と述べたと報道されている。
え?分からん、なんで?
被疑者は、当然黙秘も含めて自分に都合の悪いことは言わなくてもいい権利がるんでしょう。可視化でどうして「供述をためらう」のだろう。それって、「密室で、自白を強要したり、被疑者に不利なことも吐かせる乱暴なやり方が出来ない」ので、取り調べる側に都合が悪いって事だけじゃあないのかな。え?そういう考えはおかしいかな?
それから、もう一人の被害者である。
亡くなられた少女の遺族は、菅谷さんに温かい言葉をかけられているという。その一方で、娘さんを奪われた悲しみや怒りはどこにぶつければいいのだろうか。
真犯人を探すのは絶望的な状況である・・・。
最後に参考記事を一つ。
足利事件 冤罪防ぐ論議を深めたい(熊日新聞 2009年06月05日 )
栃木県足利市で1990年、当時4歳の保育園女児が誘拐、殺害された事件で、東京高検は4日、殺人罪などで無期懲役が確定していた菅家利和[すがやとしかず]受刑者(62)の再審開始を認める意見書を提出し、菅家さんを釈放した。
決め手となったのはDNA再鑑定。再審開始は決定的で、無罪となる公算は極めて大きい。捜査当局は冤罪[えんざい]を生んだ原因を速やかに検証すべきだ。同時に、冤罪を防ぐ具体的な論議を深めたい。
菅家さんは一審公判途中から無罪を主張。物証が乏しい中、「有罪」を決定づけたのは、導入から3年目を迎えたばかりのDNA鑑定だった。しかし、再鑑定で菅家さんと女児の着衣に付着していた体液のDNA型は一致せず、証拠の信用性は否定された。
東京高検が提出した意見書は、DNA再鑑定の結果、「型の多くが異なり同一の人に由来しない」と認めた上で、「再審開始の要件である無罪を言い渡すべき証拠に該当する可能性が高い」とした。
2000年、一、二審に続き最高裁はDNA鑑定の証拠能力を初めて認定したが、当時の鑑定精度は今と比べ格段に落ちるとされる。捜査段階では、その鑑定結果が菅家さんの自白の強要にも使われた。
DNA鑑定について専門家は「一致しなければ無罪の証拠になるのはもちろんだが、有罪の絶対的な決め手にもすべきでない」と指摘する。捜査にDNA鑑定への過信があったのは明らかである。猛省を求めたい。
再審請求中の受刑者が釈放されるのは極めて異例のことだが、鑑定結果が否定され、それをよりどころとした自白の信用性も大きく揺らいだ。釈放は当然の措置であろう。
再審開始が決定されれば、無期懲役か死刑が確定した事件では22年ぶりとなる。スタートした裁判員制度にも影響しそうだ。同制度導入で、公判立証には分かりやすいDNA鑑定などの科学鑑定がより重要視されるとみられるが、精度の高い鑑定でなければ裁判員の心証を間違った方向に導きかねない。今回の教訓を肝に銘じるべきだ。
一方、自白の強要を防ぐ最善の策として、日弁連などには取り調べの全面可視化を求める声も根強い。導入論議にも影響を与えそうだ。
菅家さんの釈放は91年の逮捕以来17年半ぶり。速やかに再審を開始し、名誉回復を図ってほしい。
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2009.06.05 | | Comments(6) | Trackback(3) | ・社会評論Ⅱ
