NO.1615 熊本県が障害者差別撤廃へ条例 障害者差別禁止法の制定を
障害者自立支援法の廃止を約束した政府は、内閣府の「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会で、「障害者に関わる総合的な福祉法の制定に向けた検討」を行っています。
一つの大きな課題は、国による「障害者差別禁止法」の制定です。
そうした中、熊本県が障害者差別撤廃へ向けた条例制定の準備をしていることが報道されています。
障害者差別撤廃へ条例 九州初 熊本県、来年2月提案=2010/05/08付 西日本新聞朝刊=
自治体レベルでは3番目ということです。熊本県は7日、障害者への誤解や偏見がない共生社会の実現を目指す「障がい者への差別をなくす条例案」(仮称)を、来年2月の県議会に提案する考えを明らかにした。県によると障害者差別撤廃を掲げた同様の条例は北海道と千葉県にあるが、九州では初めての試みになるという。
蒲島郁夫知事は2008年3月の知事選マニフェスト(公約)で「障害者の差別をなくす条例制定の準備を進める」と明記。今年3月には、有識者でつくる条例検討委員会(委員長=良永彌太郎・熊本学園大教授)を設置していた。
7日の検討委第2回会合で県は、県民の意識啓発や相談体制の充実、実際に差別問題が起きた場合に解決に導く仕組みづくり、自立支援推進などの施策を条例案に盛り込む方針を説明。10月まで計5回の会合を開き、県民の意見も聞きながら、施策の内容を詰める。
障害者政策をめぐっては、政府も、障害者の人権や基本的自由の実現を定めた障害者権利条約の批准に向けて準備を進めている。検討委の良永委員長は「政府の背中を押すぐらいの気持ちでやる。先行する条例より一歩前に進んだ条例にしたい」と述べた。
千葉県では、2006年10月千葉県「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」が制定されました。日本ではじめての画期的な条例で、雇用や教育、医療などにおいて具体的な例をあげて差別を禁止し、差別を解決する仕組みが工夫されています。
しかし国レベルでは多くの国に差別禁止法があるのに、日本ではまだできていません。
日本の障害者関係法において新しいのは、心身障害者対策基本法が障害者基本法(1993年)に改められたことです。その後、交通バリアフリー法(現・バリアフリー新法)や障害者自立支援法などのいくつかの法律ができました。
しかし、障害者の権利や障害に基づく差別について禁止している法律は、障害者基本法の第3条の障害に基づく差別をしてはならないという規定以外にありません。
これとて、差別がなにやら明らかではありません。一般的な目標で、障害者が差別から守られる法的保障はありません。障害者差別禁止法の制定が求められる所以です。(基本的理念)
第三条 すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する。
2 すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる。
3 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
差別禁止法制定の意義
私たちは、差別をした人を罰することを主に求めているのではありません。もちろん、障害者に特別の権利を与えろということでもありません。
いわゆる健常者がが生きていくうえで当然の権利として享受しているものを、障害者にも同じように保障しょうというノーマライゼイションの考え方のもとで、何が差別でいけないことかというルールを作り、それをみんなで守り、全ての人々が共に尊重しあう社会を作りたいのです。
私たちはそのような社会こそが、障害者だけでなく全ての人が住みやすい社会だろうと思っています。
どんな内容が必要か
では、どんな内容が必要なのでしょうか。
国際的には、2006年に国連で採択された「障害者の権利条約」などで、障害を理由にした差別を、以下の3つの分類しています。
(1) 直接差別 ・・・これは、「障害」を特定して権利を侵害する直接差別。なんらかの障害があるので何かをしてはならないとか何かをできないようにするという差別。これはわかりやすい、日本でも一般的に差別とされています。
(2) 間接差別 ・・・これは、「障害」があるからとあからさまに差別はしないで、一見中立に見えるが、結果的に障害者に不利になる、あるいはその可能性のある差別。例えば、就職するときの募集要件で「自力通勤」とあった場合、「障害」を名指しはしていないが、介助等の必要な障害のある人には不利益になります。この場合の「自力通勤」要件の正当性が証明されない場合に間接差別に当たるというもの。・・・或いはもっと身近には、「障害者お断り」とは言わないが、車椅子では入れない映画館とか。(いや、これって(3)かな?)
ちなみに、間接差別は日本では、法的には主に労働現場の性差別が問題にされてきました。女性だからとあからさまな差別はしないが、結局は女が損する日本の労働現場がわかりやすい例です。
(3) 合理的配慮を行わないこと・・・これは厳しい!新しい考え方です。
「合理的配慮を行わないこと」というのは、過度な負担は伴わないもので、障害のある人とない人の実質的な平等(機会均等)のための調整や変更(=合理的配慮)を行わないことが障害を理由とした差別になる、ということです。形式的に平等な機会を提供するだけでなく、実質的に同じスタートラインにたてること、同じ土俵で仕事や学習などができることを保障するという新しい概念です。
「過度な負担」?そういう配慮までしたら会社がつぶれるほどだ・・とか?
少なくともこの「3つの類型の差別」をきちんと禁止した国際的な水準の内容をもつ法律が必要になって来るということでしょう。障害者権利条約 第2条 定義
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。
参考サイト:
■障害者差別禁止法(仮称)の制定について 日本障害フォーラム(JDF)
(障害者差別禁止法(仮称)の制定を早急に行うことを政府に申し入れた文書・・関係者必読!)
■DPI(障害者インターナショナル)日本会議
■これは専門的。クリとか、ここに噛み付いてみる?
もう少し勉強しましょう。
以下もお読みください。日弁連のパンフレットから部分転載です。
さすが日弁連!って感じ。
リンク先で是非お読みください。(若者たち、しっかり勉強してな!)
日弁連パンフレット『差別禁止法の制定に向けて』
「障害のある人に対する配慮は 社会の義務です」(PDFファイル)
日本弁護士連合会人権擁護委員会
障がいのある人にたいする差別を禁止する法律に関する特別部会編
長々とお付き合いいただきありがとうございました。はじめに
日弁連は、2001年11月の人権擁護大会で「障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定に向けて全力を尽くす」ことを宣言し、約5年間にわたる調査研究の成果として2006年に「障がいを理由とする差別を禁止する法律」要綱案を発表しました。
さらには、同年12月13日に国連総会が障がいのある人の権利条約を全会一致で採択したことを受けて、日弁連は2007年3月には、わが国における差別禁止法として求められる内容を「障がいを理由とする差別を禁止する法律」日弁連法案概要として発表しました。
2007年9月、日本政府は上記権利条約に署名しました。今後、権利条約の批准に向けて、国内法の整備が問題となりますが、日弁連が示した「障がいを理由とする差別を禁止する法律」日弁連法案概要を盛り込んだ法律が制定されない限り、わが国の裁判において差別を排除し、障がいのある人の基本的人権の保障ないし実現を求める根拠としては不十分のままであることも、障がいのある人の団体をはじめとする関係者に知っていただくことが必要です。
日弁連は、内閣や国会ばかりでなく、各事業団体をはじめとする社会全体にその内容を周知し、その理解を得るとともに、多くの障がいのある人の団体と協力し、差別禁止法の制定に向けて全力を尽くす所存です。
目次
1.世界各国では、障がいのある人の差別を禁止する法律が制定されています。 … 4
2.国連人権(社会権)規約委員会は、日本政府に対して差別禁止法を制定するように勧告しました。 … 6
3.国連では、障がいのある人のための権利条約が採択されました。… 8
4・千葉県で差別禁止の条例が制定されました。… 10
5.憲法14条(法の下の平等)の保障で十分でしょうか? … 12
6.障害者基本法(2004年改正)を根拠に、個々の差別被害を救済できますか? … 14
7.禁止される差別とは、どのような行為でしょうか? … 16
8.日弁連がめざす差別禁止法とは、どのような内容ですか? … 22
9.差別被害を「簡易」「迅速」に救済するために、裁判制度以外の救済機関が必要ではないでしょうか。 … 25
10.イギリスでは差別禁止法(DDA)を実施するための委員会の委員の過半数は障がいのある人から選任しています。 … 27
11.障がいのある人々の団体などの差別禁止法の制定に向けた積極的な動きがあります。 …29
資料 障害のある人に対する差別を禁止する法律の制定を求める宣言 (2001年10月21日)… 32
障がいのある人に対する差別を禁止する法律の制定を求める宣言
日本国憲法は個人の尊厳と法の下の平等を保障し、国際人権法はすべての人がいかなる差別もなく人権を享有することを謳っている。障がい者の権利宣言(1975年国連採択)は、障がいのある人が他の人々と等しく全ての基本的権利を有することを明確に確認し、既に20を超える国々で、障がいのある人の権利を明記し、差別を禁止する法律が制定されている。
しかるに、我が国においては、障がいのある人は、今なお根深い偏見と無理解のために、日々様々な場面において深刻な差別と人権侵害を受け続けている。ところが、我が国においては、障がいのある人の具体的権利を保障し、差別を禁止するとともに、実効力ある救済手続を定めた法律が存在しない。折から、本年8月31日、国際人権[社会権]規約委員会は、わが国に対して、障がいのある人に対する差別を禁止する法律(以下「差別禁止法」という。)の制定を勧告した。
我が国は、日本国憲法と国際人権法に定める諸権利を実質的かつ平等に実現するために、障がいのある人や関係団体の意見を最大限尊重し、下記の内容を含む差別禁止法をすみやかに制定すべきである。
また、差別を受けた障がいのある人の権利救済のため、簡易迅速な専門性のある裁判外救済機関の機能を政府から独立した人権機関などに担わせるべきである。
1. 障がいのある人は、差別なくして採用され働く権利を有すること。事業者は障がいのある人の労働の権利を実現するために施設の改造・特別な訓練の実施・手話通訳者の配置など労働環境を整備する義務を負うこと。
2. 障がいのある人は、統合された環境の中で、特別のニーズに基づいた教育を受け、教育の場を選択する権利を有すること。
国及び地方公共団体は、障がいのある人の教育を受ける権利を実現するために必要な設備の設置、教員の増員などの条件整備を行う義務を負うこと。
3. 障がいのある人は、地域で自立した生活を営む権利を有し、交通機関・情報・公共的施設などをバリア(障壁)なく利用する権利を有すること。
国や地方公共団体、事業者は、これらの権利を実現するために、交通機関や設備の改造・インターネットへのアクセス対策などの環境整備を行う義務を負うこと。
4. 障がいのある人は、参政権の行使を実質的に保障され、手話通訳など司法手続における適正手続のために必要な援助を受ける権利を有すること。
当連合会は、障がいのある人の完全な社会参加と差別のない社会を実現するために、差別禁止法の制定に向け全力を尽くす決意である。
以上のとおり宣言する。
2001年(平成13年)11月9日
日本弁護士連合会
熊本県の取り組みを記録しておこうというぐらいで書き始めましたが、せっかくの機会、関係者の皆さんの参考になればと、エライ時間をかけていろいろ漁って、結局自分自身も勉強し直すいい機会になりました。
ブログって、こういういいところもありますね。
障害者差別禁止法は早く作らないかんばい!

↓ ↓


「大脇道場」消費税増税反対キャンペーン中!
http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-588.html
- 関連記事
-
- NO.2179 障害者差別、あなたならどうする?(動画) (2011/12/26)
- NO.2067 障害者権利条約 批准100か国に & お知らせ (2011/05/19)
- NO.1615 熊本県が障害者差別撤廃へ条例 障害者差別禁止法の制定を (2010/05/11)
- NO.1231 「合理的配慮」義務について考える。 (2009/07/02)
- NO.1225 「障害に基づく差別」とは・・・「障害者権利条約」に学ぶ。 (2009/06/30)
- NO.1223 障害者差別・・・ある?感じる? (2009/06/30)
- NO.1200 障害者権利条約と自立支援法 (2009/06/10)
- NO.503 障害のある人への差別と「合理的な配慮」。 (2008/06/25)
- NO.422 21世紀初の人権条約・・・障害者の権利条約が発効。 (2008/05/07)
2010.05.11 | | Comments(5) | Trackback(1) | ・障害者権利条約
