NO.1656 世田谷国公法弾圧事件 手抜き裁判 (メモ)
ネタとしては古くなりましたが、重要な記事を保存しておきます。
同じことをしても、同じ裁判所でも裁判官が違っただけで、真逆の判決。
手抜き裁判というよりも、十分な審理もせず36年前の最高裁判決をなぞるだけ。これでは裁判の放棄である。司法のサボタージュで権利が剥奪され罪を着せられたらたまらない!
二つの判決を比較して、分かりやすくまとめている朝日の社説を転載。常識的なスグレモノです。
■政党紙配布―理は無罪判決の方にある(朝日社説 2010年5月15日)
仕事のない休日に、職場や自宅から遠い地域で、身分を明かすことなく、支持する政党の機関紙を家やマンションの郵便受けに1人で投函(とうかん)する。
そんな行為が、公務員に政治的中立を求めた国家公務員法に違反するとして、2人の男性が起訴された。審理は別々に行われ、1人は東京高裁で無罪となり、1人は同じ高裁の別の裁判部から有罪の罰金刑を言い渡された。
事件の概要はほとんど変わらない。裁判官の判断を分けたのは、憲法が保障する「表現の自由」に対する理解の深さの違いというほかない。
無罪とした中山隆夫裁判長は、表現の自由には政治活動の自由も含まれると指摘したうえで、この程度の行為で行政全体の中立性に対する国民の信頼が失われる危険があるとはいえず、刑罰を科すのは憲法に反すると述べた。
一方、有罪の出田孝一裁判長は表現の自由について正面から論じないまま、機関紙の配布は政治的偏向が強い行為で「放任すると行政の中立的運営が損なわれ、党派による不当な介入や干渉を招く恐れがある」と説いた。
もちろん行政は国民全体の利益のためにあり、中立・公正であるべきは言うまでもない。だからといって、そのために個人の人権をないがしろにしてもいいという話ではない。
なぜ表現の自由は大切なのか。ものを考え、他者に伝えることによって、人間は成長をとげ、政治にも前向きに参加していくことができる。自由で民主的な社会を築き発展させるために、それは不可欠な存在なのである。
だれもが基本的人権として表現の自由をもつ。ここをしっかり押さえたうえで、では行政の中立性を担保するために、公務員にいかなる制約を課し、違反した場合にどんな制裁を与えるのが適当かを検討する。それが憲法の理念にかなう考えの進め方である。
公務員の地位や権限、仕事の中身と性質、政治活動の内容・態様……。様々な事情を考慮し、問題のあるなしをケースごとに見極める。そうしたアプローチをとって無罪を導き出した中山判決にこそ理があると思う。
高裁の判断が割れ、結論は最高裁に持ち越された。最高裁は1974年に公務員の政治活動の自由を厳しく制限する判決を出している。15裁判官のうち4人の反対意見がつき、学界などからの批判も強い猿払(さるふつ)事件判決だ。
それから36年。今回の二つの事件をすべての裁判官が参加する大法廷に回付し、徹底して議論してもらいたい。猿払判決を貫く論理の荒っぽさ、この間の国民の法意識の深化や人権意識の発達、行政や公務員を取り巻く環境の変化などを考えれば、この判例は見直されてしかるべきだ。
憲法や人権をめぐる認識がまた一歩深まる。そんな判断を期待したい。
裁判後の記者会見の様子も克明にレポートしたこちらも。(詳しくはリンク先で)
■真実は私が知っている!「世田谷国公法弾圧事件」判決(インターネット新聞JanJan ひらのゆきこ2008/09/21)
「世田谷国公法弾圧事件」の判決公判が東京地裁で開かれ、厚生労働省課長補佐の宇治橋眞一さんに罰金10万円の有罪判決が言い渡されました。弁護団は「30年前の事件の判例に従っただけで、その後の社会状況の変化を全く見ようとしない投げ出し判決」と強く批判しました。
「形式的かつ硬直な判断」と批判する専門家の声明。
■日弁連会長声明集 Subject:2010-5-14
国家公務員法違反事件有罪判決に関する会長談話
最後は毎度おなじみの・・・。
■2010年5月14日(金)「しんぶん赤旗」より。世田谷国公法弾圧事件
控訴棄却の不当判決
東京高裁 「堀越」判決に逆行
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「形式的かつ硬直な判断」と批判する専門家の声明。
■日弁連会長声明集 Subject:2010-5-14
国家公務員法違反事件有罪判決に関する会長談話
東京高等裁判所は、2010年5月13日、政党機関紙を集合住宅の郵便受けに配布したとして、国家公務員法違反の罪に問われていた厚生労働省課長補佐の控訴を棄却し、第一審どおり有罪とする判決を言い渡した。本事件は、同課長補佐が、自らは休日であった衆議院総選挙の前日、職場及び自宅から離れた場所で、政党機関紙を集合住宅の郵便受けに配布していたところ、住居侵入の疑いで逮捕されたうえ、国家公務員法違反の疑いで起訴された事案である。
本判決は、猿払事件に対する1974年の最高裁判所大法廷判決を踏襲し、国家公務員の政治的活動を包括的かつ一律に禁止する罰則規定の合憲性を認めたばかりか、その罰則規定の適用において現実の危険発生の有無を考慮する必要はないと断言したうえ、本件配布行為に対して、罰則規定を適用することは憲法21条1項、同31条などに違反しないとした。
本判決は、猿払事件判決以降、裁判所が公務員の職種・職務権限等を区別することなく広く刑罰をもって禁止することを正当化し、表現の自由に対する規制が必要最小限であるかにつき厳格な審査をしてこなかったことに対する当連合会を含む内外からの批判を全く無視するものとなっている。特に、2008年10月には、国際人権(自由権)規約委員会が、政府を批判するビラを郵便受けに配布したことによって公務員らが逮捕、起訴されたことに対して懸念を示し、日本政府に対し、表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきであると勧告をしており、その勧告を敢えて無視するかのような判断をしたと言わざるをえない。
また、本判決は、本年3月に同種事案(堀越事件)において、東京高裁が、行政の中立的運営に対する国民的信頼の侵害の有無について具体的に検討したことと比較すれば、そのような具体的な検討をすることなく形式的かつ硬直な判断に終始していることに問題があることは明らかである。
当連合会は、堀越事件判決の直後に、同じ東京高裁で、このような判断が下されたことを憂慮するとともに、最高裁においては、速やかに大法廷に回付し、憲法で保障された表現の自由の重要性と国際基準とされる人権諸条約の趣旨を十分考慮し、猿払事件判決を見直したうえで公務員の政治活動が最大限尊重されるような一定の基準を示すことを求める。
2010年(平成22年)5月14日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児
最後は毎度おなじみの・・・。
■2010年5月14日(金)「しんぶん赤旗」より。
世田谷国公法弾圧事件
控訴棄却の不当判決
東京高裁 「堀越」判決に逆行
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2005年の衆院選挙中に「しんぶん赤旗」号外を配ったことが国家公務員法に違反するとされた元厚生労働省職員、宇治橋眞一さん(62)の世田谷国公法弾圧事件の控訴審判決が13日、東京高裁であり、出田孝一裁判長は「政党機関紙配布の禁止は合理的で、憲法に違反しない」と、弁護側控訴を棄却し、罰金10万円の不当判決を言い渡しました。弁護側は即日上告しました。
判決は、ビラ配布の内容を検証して逆転無罪判決とした国公法弾圧堀越事件の東京高裁判決から、大きく逆行する異常なものとなりました。日本共産党の市田忠義書記局長は、「時代に逆行したもの」との談話を発表しました。
判決は「政党機関紙の配布は党派的偏向の強い行動類型に属する」としてビラ配布を「違法性の強い行為」と一方的に決め付けています。
宇治橋さんの行為は、休日に職場と無関係の場所でのもので、外見から国家公務員とはわかりませんでした。しかし判決は、国家公務員のビラ配布で具体的に被害があろうとなかろうと「行為のうちに危険が擬制(あると見なすこと)されている」と、国家公務員の政治活動を制限した国公法を「合理的」としました。
出田裁判長は、36年前の猿払事件最高裁判決についても、その後、飛躍的に発展した国内外の人権法にかんする理論をふまえることなく「すべてについて見解を同じくする」と、安易に踏襲しました。
判決後、宇治橋さんは「言論表現の自由は国民みんなに認められている。きわめて悪らつな判決。最高裁で無罪を勝ち取り、国家公務員の表現の自由を満たさなければならない」と語りました。
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解説
「世界標準」と向き合え
世田谷国公法弾圧事件の不当判決は時代錯誤で、民主主義の精神とは、ほど遠いものです。国公法弾圧堀越事件の東京高裁(中山隆夫裁判長)の逆転無罪判決と比べても、大きな隔たりがあります。
堀越事件の東京高裁判決では「表現の自由は国民の基本的人権のうちでも特に重要なもの」と、憲法を柱にすえ、ビラ配布に刑を科すことは憲法21条に違反するとしました。
ビラ配布は、誰もが簡単にできる基本的な表現活動です。ところが、世田谷事件判決では「違法性の強い行為」と決め付けられ、表現の自由について考慮しようともしていません。
さらに、公務員の政治活動を放任すると「政治的党派による行政への不当な介入のおそれ」があると偏見に満ちて断定。その「予防的な制度的措置」のために、国公法は合理的としています。そして1974年の猿払判決を「社会情勢の変化を踏まえても、改めるべき点はない」と擁護しました。
日本の国公法は、国家公務員の政治活動を広く制限し、それに刑事罰を与えています。勤務時間外の活動は原則自由で、違反しても刑事罰でなく懲戒処分になるフランスやドイツなど欧米諸国と比べて異常です。
これを踏まえ、堀越事件判決は「世界標準」の視点で、「整理されるべき時代」としたのに対し、世田谷事件の出田孝一裁判長は「諸外国の例は、日本と政治的力関係や社会的諸条件が異なる」と、“鎖国”を思わせる発言で廷内の失笑を買いました。
言論表現の自由という、民主主義の根幹にかかわる両事件は、最高裁に上告されました。最高裁は「世界標準」にどう向き合うのか―。大法廷での真剣な審理が求められます。(矢野昌弘)
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2010.05.30 | | Comments(0) | Trackback(0) | ・言論・表現の自由
