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NO.332 さすらいのシーさん(2)・・・出会いのころ。

 腰が90度に曲がった小さなお母さんに連れられ、シーさんが陶友 に連れてこられたのは、今からちょうど15年前、50歳の時だった。お母さんの顔は、ちょうど机の高さにあった。老母が、張りのある声で幼子に言い聞かせるように、「シー、挨拶しなさい!」と言うと、シーさんは「あい!」と言い、その場から消えた。そしてしばらくして又戻ってきた。

 お母さんは当時77歳。55歳を頭に3人の息子と1人の娘と暮していた。4人とも知的障害。下の2人は、どうにか就労していたが、上の2人は、最重度の知的障害で、家でぶらぶらしていたところを、近くに作業所が出来たからと、民生委員さんに紹介されてやってきたのだった。

 中学卒業後、人と恒常的に関わる場もなく、ブラブラしていたシーさんは、おどおどして落ち着かず、すぐに席を外しトイレに行く。・・・とにかく、受け入れて様子を見ながらやっていく事になった。

 自分の名前をフルネームで言えず、年齢も解らない。言葉は一語文。それでもシーさんは。次の日から毎日作業所に来た。すぐ近くで、歩いても2,3分もかからないのに、自転車が好きで、自転車に乗りズーッと遠回りして・・・、そして作業所に着くと必ず、チリンチリンと合図のベルを鳴らす。彼の挨拶である。

 それまで半世紀生きてきて、どれだけ人に大事にされてきただろうか?地下鉄でダンボールを敷いて寝て家に帰らなかった事もあると言う。おどおどして、人とじっと向き合う事もできないシーさんは、実は人が好きでたまらなかったのだった。・・・と言うか、関わりたくてたまらなかったのだと思う。

 お客さんが来ると必ず見に行った。そこで。お茶を運ばせる事にした。嬉しそうに運んでは「あい、おちゃ!」とお客さんに出す。おゃくさんが礼を言うのも聞かずに、すぐにどこかに行ってしまう。でも、私が、仲間たちに「シーさんのいいところは?」と聞いて、仲間たちが「お客さんにお茶を上げること」と言うと、もう嬉しくてたまらない様子だった。

 作業は?当時陶芸しかなかったので当然、土をいじるのだが、3分と続かなかった。すぐに出歩き、近所をブラブラしては返ってくる。シーさんがやれる事を見つけてやらなければならない。
 
 私は、作品を仕上げる時に出るカスを、大事にとっておき(片っ端から片付けた方が、仕事もしやすいのだが)、シーさんが帰ってきたときに、「シーさん、カスをバケツに入れて片付けて!」と言って仕事をつくり、席を移動する事を繰り返すしかなかった。

 そうこうしていたある日、シーさんがおもむろに手ろくろを机の下から取り出し、作品らしきものをつくり始めた。・・・!?どうした事か?

 シーさんも、注目されたかったのだ。人好きの彼は、人に認めて欲しかったんだと思う。
お客さんや見学の人たちが沢山来ていたが、彼らは、片づけをするシーさんを注目して褒める事などない、当たり前だが。みんな、一生懸命に作る仲間たちに注目し、声をかけ激励したり褒めてくれる。

 シーさんもその眼差しの前にいたいと思ったのだ。その眼差しを身体で受けたかったのだろうと思う。眼差しは価値ある行為、働く事、作品つくりに注がれていたのだ。シーさんは、その眼差しが降り注ぐステージに自ら立ったのだと思う。それから、「はち」つくりに励むようになった。
「はち つくった よかろ?」毎日毎日、職員に声をかけてきた。

 そうして自分を見つめてくれる人たちとかかわりながら、シーさんの日々は流れて行った。
言葉も少しずつハッキリして行き(私の聞き取りが慣れたのもあるが・・・)、毎日、自転車で張り切って出勤していた。


    ・・・・・・。          
                    
 そうそう、忘れないうちに書いておこう。お母さんがびっくりして尋ねた事がある。
「何があったんですか?これまで、いくら言い聞かせても歯医者に行かなかったシーが、自分から歯医者に行って入れ歯を入れてきたとですよ!」と。
 私がいつも「シーさん、入れ歯でも入れんと、若いお姉さん達が、シーさんはじいさんかと思うよ」と、からかい半分に言っていたからだろう。

 シーさんは人に見つめられる事で、自分を見つめていたのだ。そしてそれまではどうしても出来なかった壁を、自ら越えたのだった。人は、人とのかかわりの中でこそ、自らを成長させる。
眼差しが人を育てるのである。

なれない入れ歯を、ニーっと見せるシーさん。
「おおっ!若返ったな。いよっ、お兄さん!」
シーさんはご満悦でした。



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2008.03.15 | | Comments(0) | Trackback(0) | ・仲間とともにⅡ

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