NO.810 適正な取調べと報道を!・・・千葉・東金の女児遺棄事件を考える。 ・・・その(3)
東金・女児遺棄事件のその後。報道も少しは「静か」になりつつあるのか・・・。
職場の持ち場変わり不満募らす 東金・女児遺棄容疑者(朝日)
容疑者の働いていた時の様子が、なんだか手に取るようによくわかる気がする。彼らは、単純な作業でも、自分でできることには誇りを持ち、褒められ認められると、実にこつこつとよく頑張るものだ。しかし、いったん状況が変わると、適応できずに自信をなくし、全くやる気をなくしたりすることは良くある。私は、「自分で自分を立て直す力」と呼んでいるが、それが弱いと言う特徴がある。千葉県東金市の路上で成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5)が遺体で見つかった事件で、死体遺棄容疑で逮捕された○○容疑者(21)(※筆者注/記事では実名)が事件前の今年7月ごろ、職場の持ち場が変わり、仕事内容が急変したことに不満を募らせ、退職するきっかけになっていたことがわかった。職場関係者などが取材に答えた。東金署捜査本部は、退職が事件前日の9月20日だったことから、事件との関連を調べている。
○○容疑者は同市に隣接する同県山武市の布団工場に05年から勤務。レンタル先から返却された布団を積むなどの作業を熱心にこなし、同僚との関係も良かったという。
関係者によると、7月ごろになって○○容疑者の持ち場が変わり、綿を機械に詰めるなどの比較的高度な作業になった。○○容疑者は仕事をうまくこなせなくなり、作業の遅さなどについて上司などから注意を受けていた。
しかられてもうつむいて黙って聞いていることが多く、その場で言い返すことはなかった。「頑張っているのに」「つらいよ」といった言葉をもらしていた。「胃が痛い」と体調不良を訴えるようになり、8月末からは無断欠勤が始まった。○○容疑者は「(作業が)変わっていやになっちゃった」「一生懸命にやっているのに頭にくる」と同僚らに話していたという。
工場によると、○○容疑者の母親から「働きたくないと話している」と連絡があり、9月20日、正式に退職した。
捜査本部は、○○容疑者の職場への不満が、事件のきっかけになった可能性もあるとみており、工場関係者から話を聴いている。
本人も良くがんばっていたので、会社ももう一段高いものを要求したであろう事は察しがつくし、悪いことではない。「頑張っているのに」「つらいよ」と言う彼に、もう少しゆっくり丁寧に係わり援助していれば、少し時間がかかっても、新しい仕事を身につけて自信を取り戻し、更に成長した彼がいたかもしれないと思うと、残念な思いがする。
幼いころの写真を見ると、彼はダウン症のようだ(確定は出来ないが)。ダウン症の場合、単調な繰り返し(・・・周りが退屈だろうと思うほどのそれでも)を好み、変化を嫌うことが一般的特徴としてもある。彼にとっての新しい仕事は、相当な重荷であったことが伺える。
しかも、知的障害がもっと重いと「反発する力」も弱いが、軽度ゆえに自意識もあり、「一生懸命にやっているのに頭にくる」のであろう。こう言う意識がまた、重荷感を増幅するのである。(「主観的障害の重さ」と私は呼んでいるが、軽度ゆえの困難である)・・・そして独りで重荷に耐え切れずに、孤独のなかに閉ざされていくのである。共感し、励まし共に問題解決に当たる人をこそ必要としていたであろうと思われ、残念でならない。
会社も頑張って障害者を受け入れてきたのだろうが、今日の障害者の就労支援をめぐる貧困の問題が垣間見える記事だ。
さて、先に「適正な取調べと報道」について書いたが、関連して紹介したい記事がある。
弁護を引き受けた東京弁護士会の副島洋明弁護士は、9日夜初めて接見し、次のように語ったと言う。
しかし、警察は取り調べのビデオ撮影はしないという・・・!〈◯◯容疑者は逮捕について「こういうことになるとは全く信じていなかった」と話し、重大性を認識していない様子という。場違いなほどニコニコしていて、母親に会いたがっており、幸満ちゃんのことは「知らない子だった」と話したという。褒められることと怒られることの区別はつくが、刑事裁判の仕組みは理解していないようで、容疑については「話がくるくる変わり、聞き方一つで答えが変わる」といい、警察に対して、取り調べの様子をすべてビデオ撮影するよう要請した。
報道について、「東金女児遺体事件で容疑者を実名報道したメディアへの違和感」と題する記事が、ダイヤモンドオンラインと言うサイトにアップされている。上杉隆というジャーナリストが同業者達への違和感を述べている。(部分的に引用して紹介したい。全文はリンク先でどうぞ。)
赤信号、みんなで渡れば怖くない・・・メディアの自殺行為というべきか。・・・にもかかわらず、容疑者の逮捕直後から、筆者は、言い知れぬ違和感に襲われている。新聞・テレビのニュースを追いながら、どうしても、今回の報道にはなじめないからだ。その原因は、容疑者の「履歴」にある。
端的に言えば、容疑者の実名・顔写真報道の問題である。本事件の報道に関しては、記者クラブの横並び意識がもたらした弊害が如実に現れたとみている。
警察発表によれば、容疑者は特別支援学校に通っていた。軽度の知的障害を抱え、その病歴からも、単純に責任能力が問えるかどうか疑問の余地は残る。
にもかかわらず、すべての記者クラブメディアは実名と顔写真で容疑者を報じた。
・・・・このように、容疑者は、精神発達遅滞と診断され、さらに特別支援学校に通学していた経歴を持つのだ。となれば、おそらく精神鑑定は行われるだろう。刑事での責任能力の有無を問われ、場合によっては不起訴の可能性もある。
筆者は、起訴・不起訴の結果の如何を言っているのではない。軽度とはいえ、知的障害のある容疑者の氏名を、全記者クラブ所属メディアが横並びで、一斉に実名報道に踏み切っている点に違和感があるのだ。
現場で苦労をしてきた記者たちには申し訳ないが、今回の報道は、あまりに短絡的で、思考停止に陥っていないだろうか。
・・・横並びで報じたこの結果は、いったい偶然なのだろうか、それとも記者クラブの横並びがもたらした「談合」の結果なのだろうか。
仮に後者だとしたら、メディアは、自らの掲げてきた人権報道を貶めたことになる。
・・・精神発達遅滞の容疑者であれば、供述内容が二転三転し、取り調べが成立せず、公判が維持できないという過去のケースもある。「浅草レッサーパンダ殺人事件」などがその例だ。
当事件は当初、すべて実名報道であったが、精神鑑定の結果、容疑者の責任能力を問えず、いつのまにか匿名報道に変わっている。
時に、報じない「勇気」もジャーナリズムには必要だ。仮に、それによって孤立しても、各々のメディアがそれぞれの判断で報じれば、筆者も違和感を覚えなかっただろう。
現在の日本の報道機関に欠けている最大のものが、そうした孤立する「勇気」なのかもしれない。
参考過去ログ:NO.804 適正な取調べと報道を!・・・千葉・東金の女児遺棄事件を考える。 ・・・その(2)
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2008.12.11 | | Comments(1) | Trackback(2) | ・障害者と「犯罪」
